スピーカー:Mr. Dominick Scarangello(米国出身)
アメリカ合衆国ニューヨーク州出身。 フロリダ州立大学でアジア研究の修士を取得後、JETプログラムの外国語指導助手(ALT) として来日。帰国後、バージニア大学の大学院博士号課程に進む。 国際交流基金の研究員として再来日、現在は日本の宗教をテーマとして博士号課程の卒業論文執筆中。相模原市在住。
講演要旨:日本の近世の宗教の研究者である講師は、“宗教を学ぶなんて実際の価値がないのでは?(not relevant?) ”と、よく言われるが、宗教の話しには生きる知恵があり、倫理と人生の真実がある、と語った。
明治以前、宗教(団体)は社会において公教育(寺子屋)、医療、慈善事業などの役割を担っていて公的なものであった。
しかし、明治になり、政府による公教育が制度化し、政府が病院などもたて、医療も行い、他の福祉も含めて、それまで宗教(団体)が担ってきたものがすべて、政府が行うようになった。その為、宗教は、主流から外された(be sidelined) 。
次に、震災後の宗教団体の対応について、多くのデータを集めて、パワーポイントを使い語った。 ア)宗教団体は、いち早く寺を開放し、避難所や一時避難施設として、被災者を受け入れた。
イ)支援金や寄付金は、例えば、始めの一週間だけで(3月18日までに)天台宗は1800万円集め、曹洞宗は2012年の夏前までに、5億円以上を集め、被災地域の寺の再建や被災者への直接支援を行った。
ウ)炊き出しやその他のボランティア活動においても、団体としての既存のネットワークを使い、大きな働きをした。
エ)カウンセリングや心のケアのことは、実際一番遅れている。又、僧侶は(お経や説法の修行はあるものの)一人ひとりへのカウセリングなどの修行の面は、遅れていると言える。
オ)社会活動の例として、以前から広島や長崎に地蔵を送っていた福島の一人の住職は、震災後、ヒマワリを植え土地の除染をして、その汚染された土を寺の所有地におく活動をした。(政府からは許可がないとして、罰せられたが)彼の行ったことはシンプルだが、全ての宗派の仏教の基本である“慈悲”を、行っている。
慈;making joyful things even more joyful 悲:alleviating sadness as much as possible
又、全日本仏教協会は、保守的で今まで危険と思える(risky)ことはしなかったが、初めて一緒に足並みをそろえて、“脱原発宣言”を行った。
結論:宗教を信じるか否かは別にして、震災後、宗教団体が既存のネットワークを使い素早く行動した。日本や世界が、このような政治的にも経済的にも困難な時には、政府の予算や施策に頼ることなく、このように人々が自ら立ち上がり、手をとりあって、行動する、活動することが大切だ。ラウンジは、東急、横浜市、ボランティアが協力して自ら活動しているとてもいい例だ。
Q&A:様々な質問に真摯に、多くの知識を持って質問者の期待した以上のお答えを示され、最後に、又、ラウンジ活動へのエールを送ってくださった。
感想:Q&Aセッションやアンケートから見えてきたことは、主に2点。
1、メディアで殆ど取り上げられなかった日本の宗教団体の3・11後の被災者支援活動を、沢山知ることができる良い機会になった。
2、宗教団体には、布教活動としてではなく、いわば被災者の心に寄り添う心のケア(カウンセリング、悩み事相談など)を、期待していたが、未だその面は遅れていることを知ったこと。
このレクチャー直後の10月初旬、読売新聞に次のような記事が出た。 “東北大学で、宗教(仏教以外も含む)、宗派を超えた宗教者を対象に、心のケアについて学ぶ”臨床宗教師“という講座が開設され、18人が学び始めた。”
被災者が、今後物心両面で一日も早く元の生活に近づけるように、このような活動も含めて、より一層の被災者支援が、期待される。(瀬戸 信代)